エルムの森だより

北海道大学教職員組合執行委員会ブログ

どこをどう見たら、北大の財務内容が「順調」という評価になるのか?

北海道大学をはじめ、全国の国立大学法人の「平成 27 年度に係る業務の実績に関する評価結果」が公表されています(11/15)。

国立大学法人等の平成27年度に係る業務実績の評価結果:文部科学省

 

北大の評価結果を見ると、「財務内容の改善」は「順調」とされています。学内ではすでに2015年度末(2016年3月)、経費不足をカバーするために、第3期中期目標期間には人件費削減が避けられないと予告されていた、にもかかわらずです。そして、8月の55億円の経費不足の公開と教授に換算して205.5人分の教員人件費ポイント削減の提案です。どこをどう見たら、北大の財務内容が「順調」ということになるのでしょうか?

 

北大が提出した「業務実績報告書」には、次のようにあります。

 

「平成26年度に人件費制度(ポイント制教員人件費管理システム)の総括的な検証を行った結果,同システムが人件費管理制度として円滑に機能していることを確認した。」(39ページ)

 

開いた口がふさがりません。11/21の部局長等連絡会議配付資料が示すように、すでに第2期目のうちに北大は経費が足りなくなっており、たまたま各部局が使っていない「空きポイント」分の人件費を回すことで何とか帳尻を合わせていたというのにです。

 

elm-mori.hatenablog.com

学内向けには財務が深刻な状況にあることを訴えていながら、どうして「業務実績報告書」にそのことを正直に書かないのでしょうか。これでは、国立大学法人評価委員会の目を欺いていると言われても仕方がありません。これは財務状況悪化の原因を隠蔽することにもつながるので、いつまで経っても国立大学法人の財政は改善されないままです。

 

国立大学法人評価委員会にも問題があります。評価委員会は、各大学から出された「業務実績報告書」の真贋を確認せず、右から左に通すだけの組織なのでしょうか。仮に、実績報告書が提出された時点では、北大の財務が深刻な状況に陥っていることがわからなかったとしても、9月以降は新聞報道され、全国的な話題になっています。「知らなかった」では済まないはずです。

 

こんなことでは、国立大学法人の評価は無駄であるばかりか、有害だと言わなければなりません。北大は、早急に業務実績報告書を訂正し、あらためて評価を受けるべきです。その結果、「財務内容の改善」が「重大な改善事項」となっても、何ら問題はないはすです。なぜなら、それは運営費交付金の削減と紐付き予算化こそが、北大を含む大多数の国立大学の経営を苦境に陥らせている真の財政問題であることを明らかにするからです。財務情報と評価はあくまで正しく用いるべきです。

財務省も文科省も、大学の裁量的な予算を削っているだけ

2017(平成29)年度政府予算の編成が大詰めを迎え、財務省文科省の議論が白熱しています。

 

財務省財政制度等審議会11/4)は、国立大学法人運営費交付金については、

国立大学法人運営費交付金については、各国立大学の取組構想の進捗状況を確認し、予め設定した評価指標を用いて、その向上度合に応じて適切な評価を実施するとともに、これに基づきメリハリのある配分を行うことにより、国立大学の改革を国としてしっかりとサポートする」

「また、自らの収益で経営していく力を強化していくことも重要であり、国立大学が民間企業との共同研究の拡大や寄附金収入の拡大など、運営費交付金以外の収入を多様化し、かつ、増幅させることが不可欠」

と述べています(「文教・科学技術」24ページ)。

www.mof.go.jp

ようするに、政府の言う通りに改革(「機能強化促進」)すれば金を出す、後は自分で稼げ、ということです。

 

運営費交付金は減っていないと主張する財務省に対して、文科省は、法定福利費の増、消費税改定の影響等、「義務的支出増」を考慮すれば、運営費交付金は見かけ以上に減っている(2ページ)。「教育研究を支える基幹的な教員の体制確保は運営費交付金でなければできない」(6ページ)、などと反論しています。

財政制度等審議会財政制度分科会における国立大学法人運営費交付金に関する主張に対する文部科学省としての考え方:文部科学省

 

話が噛み合っていません。「機能強化促進」も「義務的支出増」も大学が裁量的に使える予算を減らすものなのに、ともに片方のことしか言っていないからです。

 

しかも、文科省は来年度予算の概算要求では、相変わらず「機能強化促進」を増額する一方、自らが運営費交付金目減りの原因だと指摘していた「義務的支出増」については、要求していません(「高等教育局主要事項―平成29年度概算要求―」)。

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2016/08/30/1376639_1.pdf

これでは、各国立大学法人が経営の苦境を打開できないことは確実です。

 

「機能強化促進」経費を廃止し、その分を各大学が裁量的に使える「基幹的運営費交付金」に回すべきです。8月24日の国大協要望書(「平成28年度補正予算及び平成29年度予算における国立大学関係予算の充実について(要望)」)はこのことを正しく指摘しています。

一般社団法人 国立大学協会 <新着情報>提言等水落敏栄 文部科学副大臣及び樋口尚也 文部科学大臣政務官に予算・税制改正の要望書を提出(8/24)

 

平成28年度からは機能強化の方向性に応じた重点配分が導入されたことにより、各国立大学は3つの重点支援枠及び人件費率によって0.8%~1.6%の係数が設定され、この係数によって捻出された財源が、重点支援の評価に応じて機能強化経費として各大学へ再配分されました。結果として、国立大学の教育・研究を実施する上で最も必要な基幹経費は減少することになり、このままでは、教育・研究の基盤維持にも困難が生じ、我が国の基礎研究の水準が、諸外国に著しく立ち遅れることになります。」

 

文科省財務省は、この声を真剣に受けとめるべきです

学長選、「意向聴取」有権者の範囲拡大の謎

北大の学長候補者の選考は、推薦された者が2名以上いた場合、学内の有権者による「意向聴取」投票を経て、総長選考会議が選考します。「意向聴取」投票の有権者は、「国立大学法人北海道大学総長選考会議規程」により定められています。

 

この規程が今年6/3の選考会議において改正されました(10/1施行)。教員の有権者は、教授・准教授・講師と従来通りですが、職員の有権者の範囲はこれまで課長級までだったのを、今回、課長補佐級にまで拡大したのです。

 

全学の教職員の意思を選考に反映すべきだという考え方に照らせば、有権者の範囲が拡大することは望ましいことです。しかし、なぜ課長補佐級までなのでしょうか。

 

3/18の選考会議の議事要旨には、

 

「教員以外の職員の意向聴取対象者の範囲に「課長補佐相当職」を含めることについては,大学運営に相当の経験と責任を有する者に限定して考える必要がある。」

 

と記されています。

 

この段階では、選考会議は、課長補佐級の職員を有権者とすることに慎重だったのです。ところが、それから3カ月で、有権者を課長補佐級の事務職員にまで拡大した理由を選考会議は明らかにしていません。

 

また、課長補佐級(一般職基本給表(A)4級)ということであれば、技術専門職員の中にも同等の者はいるはずです。しかし、今回の規程改正では、なぜか技術専門職員を有権者に含めていません。

 

選考会議は、文字通り現場の1人1人教職員が大学運営を担っていることを忘れているのではないでしょうか。そして、そのことが、大幅な教員人件費削減の影響の現場、特に任期付教員など立場の弱い者へのしわ寄せにつながっているのではないでしょうか。

北大の「人件費ポイントシステム」は、第2期中期目標期間にすでに破綻していた?!

北大の大学院研究院(研究科)等の部局の専任教員の人件費管理は、「ポイント制教員人件費管理システム」という独自の制度により行っています。これは、2006(平成18)年度に導入されたもので、各部局の教員数を「ポイント」(教授:1.0、准教授:0.8、講師:0.7、助教・助手:0.6)に置き換え「総ポイント」を算出、「各研究科等はその範囲であれば、職種及び員数にとらわれない教員の配置が可能」というものでした(平成18事業年度に係る業務の実績に関する報告書)。たとえば、ある部局の「総ポイント」が30だったとすると、例えば、教授22人と准教授10人を雇うことができます。あるいは、教授16人、准教授10人、助教10人を雇ってもよい、というものです。

 

2016年8月の教員人件費削減提案は、この「人件費ポイント」を、全学で205.5、すなわち教授205人分(正確には205.5人分)も減らそうというものです。この205.5ポイントを対象となる部局に割り振り、それぞれの組織の「総ポイント」を5年間かけて削減していくというのです。当然、各部局の人事可能な教員数は減っていきます。現員のポイントの合計が「総ポイント」を越えた組織では、昇任人事(准教授から教授へ、など)や退職者の補充を行うことができなくなってしまいます。これでは退職者が出るたびにその研究・教育分野が消滅し、組織がガタガタになってしまいます。士気の低下も避けられません。この教員人件費削減をどうするかは、現在行われている学長選の一大争点になっています。

 

ところで、11/21の部局長等連絡会議で配付された「教員人件費ポイント削減数と削減額について」という資料を見ていて驚きました。

 

「執行残ポイント部分(灰色部分)については、第2期の交付金削減対応として既に使用されており財源は無いため削減効果は得られない。」

 

と書いてあるのです(下の画像参照)。

 

「残ポイント」とは、各部局が「総ポイント」いっぱいまで人事を行っておらず、使い残した分のことです。第2期中期目標期間、この分の財源を運営費交付金の削減対応として使用してきた、つまり、その時点で各部局は「総ポイント」いっぱいまで人事を行うことはできない状態だった、というのです。そして、財源の不足を「残ポイント」でもカバーできなくなったため、とうとう「使っているポイント」にも手をつけなければならなくなったのが現在の状況です。これは、鳴り物入りで導入された北大の「ポイント制教員人件費管理システム」はわずか数年で事実上破綻していた、ということを意味するのではないでしょうか。

 

もしそうならば、なぜこの破綻を多くの教職員は知らされなかったのか、破綻の原因をつくったのは誰なのか、が問われることになります。これは直接には、北大の個別的な経営問題ですが、それだけではありません。運営費交付金のしくみをはじめとする国立大学法人財政制度にもメスを入れなければなりません。

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北大 大幅な教員削減案(読売新聞12/3朝刊・道総合面)

教員人件費削減問題は、2017年学長選の一大争点になっています。

 

読売新聞12/3朝刊の記事は、11/30に開催された「公開質疑」でも、真っ先にこの問題が取り上げられたことを報じています。ただし、報道陣はシャットアウトされていたため、ソースは参加者からの聴き取りに頼らざるを得ませんでした。社会の公器である大学の学長選考過程は、教職員・学生ら大学構成員はもちろん、広く市民にも開かれたものであるべきです。

 

教員人件費削減問題が学長選の争点であることは、北海道新聞11/30朝刊も報道しています。この記事では、北大教職員組合が学長候補者に対してアンケートを行ったことを紹介していただきました。アンケートの結果は教職員組合のホームページに掲載しています。

http://ha4.seikyou.ne.jp/home/kumiai/

国立大交付金 野放図な減額は疑問だ(北海道新聞12/2社説)

地元紙の社説です。

 

「時間をかけた基礎研究などに取り組む研究者はますます減るだろう。実用化や応用ばかりが重視され、人文社会系の研究は理系以上に先細りが懸念される。」

「資金が欲しい一部の研究者が、軍事技術に応用可能な研究に資金を出す防衛省の制度に注目するのも、こうした背景があるからだ。」

 

大学は、政府機関や営利企業では果たすことのできない社会的責任を負っています。このことを軽視すれば、国民の精神的自立の基盤が失われ、社会に自由がなくなってしまうでしょう。

dd.hokkaido-np.co.jp

北海道新聞は、11/28(土)朝刊でも、「人件費削減案 北大の質低下を懸念」という大きな記事を掲載しています。

 

記事では、理系部局の30代男性助教の声が掲載されています。自由な研究ができることを期待して民間企業から転職してきたのに、今回の教員人件費削減のせいで雇い止めにされそうだというのです。大学経営の失敗を現場、特に任期付の弱い立場の人びとにしわ寄せすべきではありません。