エルムの森だより

北海道大学教職員組合執行委員会ブログ

雇止めによる研究力の衰退危機

 

 以下の情報がよせられています。

 

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しんぶん赤旗 2019年1月9日(水)

非常勤345人守った 理研労のたたかい

雇い止めルール全廃へ決意新た

 国立研究開発法人・理化学研究所理研、本部・埼玉県和光市)では昨年、理研労働組合のたたかいで非常勤職員345人の雇い止めを撤回させ、無期 雇用転換へ道を開きました。新しい年を迎え、引き続き事務系職員の5年雇い止めと研究系職員の10年雇い止めルールを撤廃するまで頑張ろうと決意を新たに しています。(田代正則)

「続けたい」当事者の声が

 理研は100年の歴史を持つ国内唯一の自然科学系総合研究所であり、ノーベル賞を受賞した湯川秀樹朝永振一郎らが集い、「科学者の楽園」と呼ばれました。

 その理研で2016年4月、研究を支えてきた非常勤職員を5年の契約上限で雇い止めにするルールが一方的につくられました。

 改正労働契約法によって有期雇用が5年を超えて継続すると無期雇用に転換できるルールが18年4月から適用される前に、就業規則を変え、無期雇用試験で選別する仕組みを導入したのです。「雇用の安定」という法の趣旨に反するものです。

 18年3月末で、契約上限に達するのは約500人。無期試験合格者は16年74人、17年47人とごく少数で、大量雇い止めが予定されていました。

 理研労は雇い止めをやめるよう求めました。当局が誠実に話し合わないため、17年12月、科学技術産業労働組合協議会(科労協)とともに東京都労働委員会に不当労働行為救済を申し立てました。

 金井保之理研労委員長は「撤回させたのは、当事者が働き続けたいと声をあげたことが大きかった」と振り返ります。

 研究チームのアシスタントをしている40代の女性は、「営利企業ではない理研で働いていることに、愛着と誇りを持っています」と話します。研究員のスケジュールや研究費の管理、出張手続き、研究装置の発注などを担う業務です。

 「年度替わりが、いちばん忙しい。私たちが雇い止めになれば、研究がストップします」と強調。絶対に撤回させると決意し、仕事を続けました。

 組合が開いた非常勤職員の相談会では、雇い止めを強行されたら、裁判を起こして職場に戻ろうとの決意が相次ぎました。

 全国大学高専教職員組合全大教)、東京大学職員組合、首都圏大学非常勤講師組合などと院内集会を開き、共同を広げました。

 日本共産党の田村智子参院議員は18年2月1日の参院予算委員会で追及。林芳正文部科学相(当時)から「適切に対応するよう理研に伝える」との答弁を引き出しました。

 理研当局側は2月19日の団体交渉で年度末の雇い止めを撤回する方針を表明。26日の職員説明会では「国会で議論があった」と説明しました。

 就業規則そのものを改めさせ、研究系職員の10年雇い止めも撤回させるまで、たたかいは続きます。

論文数減 頭脳流出も

 和光市駅から理研本部までの約1キロは、同所で発見された113番目の元素にちなんで「ニホニウム通り」と名付けられました。かつて米軍基地が返還されて理研本部になったことは地元の誇りとされています。

 こうした大がかりな科学研究は、専門知識を持つ研究系職員がデータ解析や実験機器の設計・操作などで支えています。

 ところが安倍政権は、財界大企業の要望を受け、2013年12月、任期付きの研究者は10年雇用継続するまで無期転換権の発生を先延ばしする法改悪を行いました。

 理研では研究系職員に10年先延ばしを適用し、さらに2023年にはじまる無期転換を逃れるため、10年上限で雇い止めにするルールがつくられま した。田村議員の調査で、対象となる研究系職員は2122人(18年4月時点)にのぼり、毎年、大量雇い止めになれば研究が成り立ちません。

 40代の男性は大学院を出て、当初、「研究員」に応募しました。希望の研究に任期付きのポストしかなく、「テクニカルスタッフ(職員)なら長く働 ける」とすすめられて、研究系職員になりました。「研究テーマが変わっても職員としてサポートを続けてきたのに、突然、10年で雇い止めだと言われても納 得できない」と訴えます。

 男性は「国の政策で、人件費に充てる基盤的予算(運営費交付金)が少ないため、私たちは“物件費”の扱いです。研究予算の増減で、賃金カットや雇い止めが起こっています」と話します。

 科学誌『ネイチャー』が17年8月に、理研のある研究の予算が43%カットされ、スタッフへの報酬と実験用マウスの維持費用が困難になっていると紹介。理研の予算が削減されていると警鐘を鳴らしました。

 日本の科学論文発表数は03~05年の2位から、13~15年は4位に順位を下げました。質が高いとされる引用回数の多い論文数も4位から9位へ落ち込みました。

 研究系職員のなかには、雇い止めになるのなら、AI(人工知能)開発などのIT企業に転職しようとする人も現れており、頭脳流出が起こっています。

 男性は昨年11月21日、共産党の田村議員事務所と党和光市委員会が理研労を招いて開いたシンポジウムに参加しました。「理研関係者だけでなく、地域の人たちがたくさん参加してくれ、驚きました」と話します。

 金井保之理研労委員長は、「日本の科学研究の発展のためにも、不当な雇い止めルール撤廃までたたかいます」と話しています。

運営費交付金減額によるポストの不補充

国立大学協会が国立大学運営費交付金の減額などによって
大学の研究力が維持できなくなっていると訴えたことが
次のように報道されています。
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 12月19日、国立大学協会日本共産党国会議員団と国会内で懇談しました。国大協の山本健慈専務理事(和歌山大学前学長)は、国立大学運営費交付金の 減額などによって大学の研究力が維持できなくなっているとし「いまが臨界点。ここで崩壊したら取り戻せないところにきている」と訴えました。
 
 山本氏らは、2004年以降、運営費交付金が1400億円以上削られたうえ、16年度からは交付金の一定額を各大学に拠出させて「再配分」する仕 組みが導入され困難に拍車をかけていると指摘。千葉大学では拠出額の7~8割しか再配分されず、戻ってきても使い道が決まっているため人件費には回せず、 研究者の採用抑制につながっていると主張。火山地帯に立地する大学で退官する火山研究者の後任が補充できないなどの事態が各地で起きていることが紹介され ました。
 
 財務省側から再配分額を現在の1%から10%(約1000億円)とする案が出ていることについて、山本氏は「直下型地震だ」と批判。畑野君枝衆院議員の国会での追及に謝意を示しました。
 
 畑野氏は「運営費交付金拡充に力を合わせたい」と表明。穀田恵二国対委員長が「大学の危機が国民にどういう意味を持つか、大きな視点で考える場が必要ではないか」と語ると、山本氏も「全く同感だ」と応じました。
                           赤旗新聞 12月20日(木)より

運営費交付金が評価配分へかわる?

 
 
国立大の運営費交付金のうち、約10%の1000億円を評価に基づく配分にするとの方針がCSTI(総合科学技術・イノベーション会議)で公表されました(今年度は300億)。
全教員への年俸制導入も含まれています。
 
 
CSTIの資料は以下の通りです。
 
 
(上山隆大氏の資料がひどいと思いました。ちなみにこの人、先日話題となったベネッセ事件の関係者です。
共通テストでの民間英語試験の導入問題とも絡む内容であり、このような人が高等教育政策を左右することに憤りを感じます)
 
 
この予算案が来年1月からの通常国会に提出される見込みです。
 
 
このような内容はすでに財政等審議会の建議などで公表されていました。
 
 
これに対しては、先日ご紹介したように国大協が声明を出したり、国大協の山極会長が財務省の神田眞人・主計局次長とバトルしたり、衆院の文教委員会で多少の議論があったところですが、結局、国大協と文科省財務省に押し切られた形です。
このようなひどい予算案をそのまま通してしまったら、成果主義重点配分枠)は今後も拡大し、特に地方国立大は維持自体が困難になり、廃止・統合が進む可能性が高いと思われます。
 
まだまだ国会審議での撤回も可能ですし、仮に重点配分枠が正式に決まっても、その基準を「よりマシなもの」にするために、また、今後の拡大を阻止するためにも、アクションは大切だと思います。
 
国立大学関係者のみなさんは、まずこのニュースを周囲で共有して頂ければ幸いです(大学の教職員でも知らない人は多いと思います)。
その上で、ぜひ教授会などを通じ、各学長に対応を質して頂ければと思います。
すでに国大協でも全国の国立大に対応の検討を指示していると聞いています)
 
個人的には、声明などを使い、例の「#大学を壊すな」キャンペーンをネット上などで展開できないものかと考えています
大学関係者でも怒っている人は多いようです。ただ、その怒りを社会にしっかり広く伝える経路がないので、そこをどうにかできないかと・・・。

運営費交付金の2019年度予算案

 
次年度予算案について、国立大の人件費を圧迫する運営費交付金の傾斜配分案が出され、さらに傾斜配分を拡大する方針であるという報道がなされています
教員の人件費が確保できず、退職教授の後ポストを補充できない北大にとって
最悪の予算方針です。
 
以下、その報道です。
 
国立大学の運営費交付金の2019年度予算案で、約1割に当たる1000億円を“評価に基づく傾斜配分”とする厳しい仕組みが公表された。衝撃的なのは、国立大の第4期中期目標期間が始まる22年度から「評価と配分の仕組みを交付金全体に広げる」という方針だ。
 
日刊工業新聞2018.12.26より)
 
「国立大の運営費交付金に衝撃、“評価に基づく傾斜配分”あっという間に10割に!? 2022年度から「仕組みを全体に広げる」方針」
 
 
この記事の終わりの山本佳世子記者の次のコメントがあります。
「国立大減に向けては、限られた政府予算を奪い合う形にし、「先見の明あり」も「やむにやまれず」も一緒くたに、ただし「各大学の自らの判断で」の統合をいくつも促す、というのが政府の方向性だと、数年前から感じていた。とはいえ、私も「内閣府での強硬派は、一部の議員と△省系の事務方のみ」と思っていただけに、「もはやそんなレベルでない賛同者増になっているのか」と気づいて慌てた。今回の予算&第4期に向けて、つまりわずか19-21年度の間に「まずは評価反映を全体の1割にし、徐々に増やして10割に」という方針は、予想を越えたものでショックを受けた。予算のレクでは終了後も、国立大学法人支援課の課長らに、いつまでも黒山の人だかりだった。本件についてはさらに取材を進めて、1月に改めて発信したい。」

厳格な業績評価に基づく新たな年俸制

安倍内閣は6月15日の閣議経済財政運営と改革の基本方針 (主なポイント)未来投資戦略2018 (概要)統合イノベーション戦略 (概要)を決定しました。
 それを受け文科省は6月22日の国立大学法人等人事担当者説明会で
人事給与マネジメント改革の動向及び今後の方向性Q&Aについて説明しました。
その中で年俸制の見直しについて,
1)年俸制の定義を拡大
2)多様な雇用形態を可能とする
3)業績評価とその処遇への適切な反映の徹底
等を上げ,4つのモデルを提示しています。
 新たな年俸制は基本給を大幅に減らして業績給を増やし,総人件費も圧縮するという狙いでしょう。業績主義の強化により差別と教員間の分断が持ち込まれる可能性が強くなるといえるでしょう。
 国立大学協会は2018年8月に国立大学の改革の方向性を出しました。

 

北大では以下の様な方針を決めていますが,新年俸制の内容はまだ明らかではありません。

 1)2018年度末をもって,現行の年俸制に係る新規適用を終了させる
 2)2018年3月1日に現行年俸制へ移行できる機会を確保する
 3)現行年俸適用者はその取り扱いを継続する
 4)新たな年俸制は2019年4月以降策定し,それ以降移行申出を開始
 5)2019年4月~新年俸適用の間の新規採用教員は月給制を採用する

北大は教員人件費を7.5%減らしてもなお赤字になる見通しを立てており,総人件費抑制・全体の賃金引き下げになる可能性は極めて高いといえるでしょう。教員の退職金もこの6年で約600万円も減額され,この先も明るい展望はありません。

働きがいのある職場・落ち着いて研究をする環境,それを保障する賃金の確保はどうしても必要です。定年も65才に引き上げなければならないでしょう。

運営費交付金の増額は喫緊の課題ではないでしょうか。

今年は正規職員登用試験制度を変更,疑問・不満の声も

 北大では非正規で有期雇用職員を正規職員に採用する試験(筆記試験と面接)を平成24年度より行っていますが,その合格者数(応募者数)は24年度3名(298)、25年度4名(124)、26年度3名(88)、27年度1名(72)、28年度4名(77)、29年度?名(47)と極めて少数です。

 今年は試験の方法を大きく変更し小論文と面接にしました。採用試験の公表が遅く,応募期間は土日挟んで10日間,実際に試験のことを知ったのが金曜日だったとの連絡体制にも問題がありそうです。

 また,小論文の課題は「あなたがこの試験に合格した10年後,どのような事務職員になりたいかを述べてください。また,北海道大学が現在直面している課題を挙げ,その課題解決に本学の事務職員はどのように取り組むべきかを併せて述べてください。」であり,中央事務系に働く人はまだしも,研究室で働いている人や年齢的に10年後まで働けない人にとっては極めて不利な内容です。

 試験を変えるのにいつもより遅い時期に公表され,応募期間が短く,課題にも公平感が欠けるもので,疑問・不満がでても仕方ないでしょう。「出来レースでは?」との声も聞こえてきます。

朝日新聞は9月26日から「教えて!日本の「科学力」」を8回にわたって連載していました。とても興味深い記事ですので,一読ください。

1)雑務に追われ、論文減少
 http://news.asahi.com/c/aobvbf371VdV4Jak

2)博士課程への進学、若者が敬遠している?
 http://news.asahi.com/c/aobSbf36fiaR64aq

3)科研費、獲得しにくくなっているの?

 www.asahi.com

4)研究費増えたイノベーション、現状は?

  

www.asahi.com

 5)不正研究,なぜ起こるの?

 

www.asahi.com6)重視する研究テーマ,政治主導で決まるの?

 

www.asahi.com7)企業の論文,なぜ大きく減ったの?

www.asahi.com8)軍事研究費,「学問の自由」に影響は?

 

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