エルムの森だより

北海道大学教職員組合執行委員会ブログ

理研が非常勤職員を「大量雇い止め」で上がる現場の悲鳴 波紋はどこまで広がるか

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理研が非常勤職員を「大量雇い止め」で上がる現場の悲鳴
波紋はどこまで広がるか

現代ビジネス 2017.12.25 田中 圭太郎
   国内最大の研究機関「国立研究開発法人 理化学研究所(以下、理研)」の非常勤職員が、
2018年の3月末以降、大量に雇い止めされることになった。最先端の研究発表や研究事務
を長年支えてきた職員たちが、一方的に導入された就業規則によって、職場を去らなけれ
ばならないのだ。

理研は物理学、工学、化学、数理・情報科学、計算科学、生物学、医科学など幅広い分野
で研究を進める、日本唯一の自然科学の総合研究所。1917年に財団法人として創設され、
株式会社、特殊法人を経て、2003年に文部科学省所管の独立行政法人として再発足。2015
年に国立研究開発法人理化学研究所となった、100年の歴史がある日本を代表する研究機
関だ。

その理研が、非常勤職員の契約期間を5年上限とするルールを導入したのは、2016年3月の
ことだ。非常勤職員たちは戸惑い、労働組合とともに反対の声をあげたが、さらに彼らを
混乱させたのが、理研が交渉の中で、雇い止めをする明確な理由や、人数を明らかにしな
かったことだ。

雇い止めの期限が来年3月末に迫るなか、交渉にまともに応じようとしない理研の態度に
労働組合は憤り、今月18日、東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた。

理研の雇い止めは、「改正労働契約法」の趣旨に反する恐れがあると同時に、研究者の将
来や、他の独立行政法人にも大きな影響を及ぼす可能性がある。問題点をリポートする。



12月18日、来年3月末で理研を雇い止めされる非常勤職員6人が、労働組合とともに厚生労
働省で記者会見を開いた。内訳は、60代の男性1人と、30代から50代の女性5人。全員が6
年以上勤務している。「雇い止めに納得できない」と涙を流しながら訴えたのは、40代の
女性だった。

「雇い止めを禁止するような法律がこの国にはある。にもかかわらず、どうして理研が決
めたルールで雇い止めになるのか、理解できません」

この女性が指摘している法律とは、2013年4月に施行された改正労働契約法のことだ。簡
潔に言うと、非正規の労働者を5年以上同じ職場で雇う場合、本人が希望すれば、原則
「無期雇用」にしなければならないことを定めている。この法律に基づけば、会見した6
人は、2018年4月以降、「無期雇用」を申し込む権利が発生するはずだった。

ところが理研は、独自に決めたルールによって、それを阻止しようとしているという。

理研の研究の下支えをしている非常勤職員には「アシスタント」「パートタイマー」「事
務業務員」といった職種があり、職員のほとんどが女性だ。もともと契約期間に上限がな
く、1年契約を毎年更新し、10年以上働き続けてきた職員も多い。過去に半年以上の休業
期間をおいて、再雇用されているケースも少なくない。

こうした実態があるにもかかわらず、理研は2016年3月、労働組合や労働者代表の反対を
押し切って、契約期間の上限を5年と定めた。それも、「2013年4月の契約」に遡って適用
し、「2018年3月で雇い止め」と決めたのだ。



労働者の無期雇用申込権を阻止するために、契約期間の上限を5年とすることは改正労働
契約法の趣旨に反すると、筆者は過去の記事でも指摘してきた。

たとえば東京大学でも同じ問題が起きていたが、結局東大は労働組合との話し合いの末、
雇い止めを撤回。5年以上働く非常勤職員らを「原則、無期雇用に転換する」方針を決め
た。(詳しくは『東京大学で起こった、非常勤職員の「雇い止め争議」その内幕』)

理研も「すべての対象者を雇い止め」にするわけではなく、無期雇用の職種「無期雇用ア
シスタント」を作り、この試験に合格した職員は「無期雇用にする」として、2016年から
試験を開始。2016年は74人、2017年は47人が合格。2017年は少なくとも100人ほどが不合
格になったとみられる。

このように「無期雇用に転ずる制度を作ったのだから、これで問題ないだろう」という姿
勢なのかもしれない。しかし理研は、そもそも不合格だった人が何人いたのかを明らかに
していない。不合格になった職員は点数も明かされず、なんの説明も受けていないという。

さらに職員が不審に思っているのは、試験を受けた職員のなかでも、特に、長年勤務して
きたベテランの職員が「不合格」になっている傾向がみられることだ。

「私も受けましたが落ちました。長く勤務されて、仕事を十分に理解している方も不合格
になりました。なぜ雇用してもらえないのか、理解できません」(40代・女性)

理研は、雇い止めする人数も組合や職員に説明していなかったが、その数字は12月になっ
て、意外なところで明らかにされた。この問題が国会でも議論されたためだ。参議院内閣
委員会に提出された資料では、理研には非常勤職員が4209人在籍し、そのうち496人が201
8年3月に契約期間が終了すると記されていたのだ。



理研労働組合と、上部団体の科学技術産業労働組合は、団体交渉で雇い止めの人数や、
理由などを明らかにしないのは「不誠実団交」だとして、12月18日、東京都労働委員会
不当労働行為の救済を申し立てた。

組合は、理研が行う雇い止めから非常勤職員を守るために申し立てを行なったが、他にも
危惧していることがある。

その1つは、多くのベテラン職員が大量に雇い止めされることで、研究業務が滞ってしま
うことだ。実際に、各研究室からもベテラン職員がいなくなることで研究に支障がでる、
と困惑の声があがっているという。団体交渉の場で組合が「研究に支障がでるはずだ。そ
こは大丈夫だと考えているのか」と質すと、理研から返ってきた言葉は「自信がない」だ
ったという。

もう1つの危惧は、この雇い止めが非常勤職員にとどまらず、将来的に研究者にも及ぶ可
能性がある点だ。改正労働契約法は、2014年4月に特例が設けられている。その内容は、
「大学等及び研究開発法人の研究者、教員等については、無期転換申込権発生までの期間
を原則5年ではなく、10年」としているものだ。

組合によると、理研で無期雇用されている職員・研究員は600人で、無期雇用の研究者の
募集は長い間行なっていない。その一方で、有期雇用、つまり非常勤の研究員は約2000人
もいるという。

今回の職員の雇い止めがまかり通れば、労働契約法の改正から10年を迎える2023年4月ま
でに、今度は2000人の非常勤研究員の多くを雇い止めするルールが導入される可能性が否
めないのだ。

「非常勤職員の大量雇い止めにより、理研全体のパフォーマンスが低下し、研究レベルは
下がらざるをえません。いまの経営陣は研究の現場を知らないのです。さらに今後、研究
員の雇い止めが起きてしまったら、日本の自然科学研究の未来はないでしょう」(組合関
係者)



筆者は理研に対し、雇い止めは労働契約法の趣旨に反するのではないかと質問した。その
回答は雇い止めを正当化するものだった。以下回答を掲載する。

理研においては、多くの職員が時限プロジェクトに従事しており、この時限の到来によ
り改廃され得るプロジェクトを遂行するため、その財源で雇用される職員については有期
雇用が基本と考えている。
さらに、有期雇用を適切かつ効果的に活用し、研究系人材の流動化を促進するという社会
的な使命を果たしていく観点から、適切かつ効果的に、また労働法制の下で有期雇用の運
用を図ることは重要であり、そのため、任期制職員の雇用期間に関し関係する規定におい
て雇用上限の明確化を明示したものである」(原文のまま)

理研は「研究系人材の流動化を促進する」ことは「社会的な使命」だと回答し、「雇い止
め」を正当化している。しかし、「労働法制の下で有期雇用の運用を図ることは重要」と
あるが、労働法制の下で、と言いながら契約期間を5年上限とすることは、無期雇用化を
促す改正労働契約法の趣旨と矛盾するのではないか。

組合側の弁護団は、理研が契約期間の上限を導入したことは、「改正労働契約法の脱法行
為」であると同時に、必要性と合理性がない不利益変更であり、違法と指摘している。
「無期雇用アシスタント」の試験が、実態として長く働いた人を落とすための試験になっ
ているのではないかということも、違法性が疑われると話している。

さて、東京都労働委員会の審査は年明けから始まる。しかし、雇い止めが起きる2018年3
月末までに理研の態度が変わらなければ、組合側は新たな法的措置も検討しているという。

理研の雇い止め問題の行方は、理研だけで終わる問題ではない。独立行政法人全体に影響
を及ぼす可能性があることを指摘しておく。

先述した参議院内閣委員会で示された資料では、各省庁が所管する独立行政法人の非常勤
職員が、2018年3月にどれだけ雇い止めされるのかが初めて明らかにされた。その人数は、
理研も含めて少なくとも4700人。上限付きの契約となっている非常勤職員は3万人もいる。
このままでは多くの人が異を唱えることができないまま、無期雇用申込権を得られなくな
ってしまう可能性があるのだ。

日本の研究基盤を揺るがす問題が起こっていることに、注視しなければならないだろう。