エルムの森だより

北海道大学教職員組合執行委員会ブログ

東奥日報コラムで文系軽視の文科省を批判しています

東奥日報コラム天地人 2015年8月11日付

 「日本経済の憂鬱(ゆううつ)」の著者でもある滋賀大学学長の佐和隆光さんは、文部科学省が進める国立大学改革に異を唱える急先鋒(せんぽう)の一人だ。小欄で以前触れた文系切り捨てへの反発がある。

 佐和さんは理工系ブームの1960年代、東大に進学し経済学を専攻した。自著「経済学への道」によると、早熟な読書体験が社会科学への関心の扉を開いた。「人文知と融合させた技術こそが心を高鳴らせる新製品を生みだす」。共感を覚えた金言として、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏の言葉を引く。

 文科省は人文社会科学系と教員養成系学部の廃止、社会的要請の高い分野への転換を迫る。背景には大学運営交付金の減少もある。国立大が法人化された2004年度の1兆2400億円から10年間で1割以上も減額された。

 安倍政権下で頻繁に顔を出す「選択と集中」を大学教育にも当てはめようとする。限られた予算を産業や経済の成長に直結する理工系分野に集中配分し、無益な既存の文系学部は不要だという。

 ジョブズ氏の言葉を借りるまでもなく、技術力だけでは画期的な商品は生まれない。意外なところにヒントが潜み、その芽を出すことでイノベーションは誕生する。柔軟な思考や創造力を育むのは幅広い教養だ。学問を成果主義だけで測るのであれば、佐和さんが怒るのも無理はない。